夢も希望もない?
~“仕事”をどう捉えるか~
■ある化学メーカー工場の研修の一コマ。
受講者は、入社5年目の23歳くらいの若者たち。
研修の目的は、「マンネリ感の打破、新たな目標設定、そしてリフレッシュスタートを切ろう!」というもの。
“キャリア系”と呼ばれる研修です。
まず、皆さんへの問いかけで研修が始まります。
私:「仕事を楽しんでいますか?」
皆さん:「……」
私:「少しグループ内でおしゃべりしてください」
皆さん(あちこちでおしゃべりが始まる):
「そもそも仕事って楽しいもんじゃないでしょ」
「稼ぐために仕方なくやってる、ただそれだけ」
「先輩だってつまらなそうだし」
「毎日、家と工場を車で往復するだけ、変化がない」
「家に帰ってもYoutubeかNetFlixを観るだけ」
「寝て起きたら、また工場に行かなきゃならない。同じ毎日の繰り返し」
私の心の声:「今日もヤリガイのある研修になりそうだ……」
入社5年、私の年の半分にも満たない若者が、仕事に夢も希望も抱いていないこと(そもそも夢や希望を抱く対象ではないと思っている人も多いこと)に、改めて驚きつつ、フンドシならぬネクタイを締め直すわけです。
■そして、次の質問。
私:「皆さんの仕事って、どんな“価値”を産んでいると思います」
皆さん:「……」
私:「少しグループ内でおしゃべりしてください」
皆さん(さっきより、起動が遅めだが、おしゃべりが始まる):
「価値って言われてもなぁ」
「オレは、お前の部署で使う材料を作ってる」
「オレは、お前が作った材料で、アイツの部署が使う材料を作ってる」
「オレは、“粒”を作って、貯蔵スペースに持っていっている」
私:「その“粒”はその後、どうなるのですか?」
皆さん:「どこかの会社がトラックで持っていきます」
私:「どこに?」
皆さん:「知りません」
私と皆さん:「……」
私:「皆さんが作った“粒”は、加工メーカーに納品されますよね。その後、最終的にはどんな製品になるのですか?」
皆さん:(しばらくして)「ポテチの袋!」
私:「他には?」
皆さん:「……」
その化学メーカーのホームページには、最終製品として、ペットボトル等わかりやすいものや、医療用や自動車、バイオ関連まで多種多様な製品が書かれています。
でも、ほとんどの人が、“最終的な価値”を知らない。
自分たちが、どれだけ社会に重要な貢献をしているかを知らない。
これは、とても残念なことです。
■野球で言えば、ピッチャー。
「皆さんの仕事は野球で言えば、ピッチャーですね。皆さんが作ったものが、加工メーカーに渡り、いろんな製品となって私たちの生活を支えている。もし、皆さんの貢献がなかったら、だいぶ不自由な社会になっているでしょう。ピッチャーが投げなければ、ゲームは始まらない。本当に重要な役割を担っているわけです」
皆さんは、「そうなのね……」と若干キョトンとしながら、私の話を聴いています。
そうなんです。価値あることをしているわけです。
■『3人のレンガ職人』という話があります。
世界中を回っている旅人が、ある町はずれの一本道を歩いていると、職人たちがレンガを積んでいました。
旅人は、職人のそばに立ち止まって尋ねました。「あなたは何をしているんですか?」
そう質問すると、それぞれの職人は違った答えを返してきました。
◇1人目の職人
「見ればわかるだろう。レンガを積んでいるのさ。
毎日毎日、雨の日も強い風の日も、暑い日も寒い日も1日中レンガ積みだ。
なんでオレはこんなことをしなければならないのか……まったくついてない」
怒ったような口調で旅人に伝えました。
◇2人目の職人
「オレはね、ここで大きな壁を作っているんだよ。これがオレの仕事でね」
旅人は「それは大変ですね」と、いたわりの言葉をかけました。
すると、意外な言葉が返ってきました。
「なんてことはないよ。この仕事でオレは家族を養ってるんだ。この仕事があるから家族全員が食べていけるのだから、大変だなんて言ったらバチが当たるよ」
◇3人目の職人
その職人は目を輝かせてこう答えました。
「ああ、オレたちのことかい?オレたちは歴史に残る偉大な大聖堂をつくっているんだ」
旅人は「それは大変ですね」と、いたわりの言葉をかけました。
すると男は、楽しそうにこう返してきました。
「とんでもない。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを癒すんだよ。素晴らしい仕事だよ」
有名なので、どこかで聞いたことがある話かもしれませんね。
傍から見たら、「レンガを積む」という同じ作業をしている3人。
でも、それぞれが働く動機は、かなり違うようです。
■3つの働き方
①ジョブ:「報酬」のために働く(1人目の職人)
仕事を単なる労働ととらえ、報酬のために働く。
早く仕事が終わらないか、とそればかり考えている。
②キャリア:「成長」のために働く(2人目の職人)
成長している実感を求めて働く。
自身の技能で貢献できていることに喜びを感じる。
③コーリング:「社会的意義」を感じて働く(3人目の職人)
社会の役に立っている、自分の仕事には深い意味があるという実感を求めて働く。
仕事を“天職”だと感じている。
■どう捉えるのかは“あなた次第”
レンガ職人がそれぞれ違う価値観、仕事観を持って働いているように、どう仕事を捉えるかは皆さん次第です。
もっと言えば、「自分勝手に定義できる」わけです。
■どんな仕事にも必ず“価値”がある。
どんな仕事にもお客様がいて、そのお客様に何らかの価値を提供しているから、対価を得ることができているのです。
だから、相手に“与えている価値”を、個人レベルと組織レベルでそれぞれ考えてみること。
つまり、“仕事の再定義”をしてみることで、“今ここ”を充実させ、仕事にやりがいを感じることができるのです。
■どちらが楽しいか?それだけ。
それでも、頑なに仕事を“ジョブ”の範疇に留めておこうとする人もいます。
「パンのためだけに働いていて、何が悪い?」
「仕事にやりがいなんかなくたって、プライベートを充実させればいいじゃないか」と。
そういう人は、それでいい。
どちらが楽しいか?
どう捉えたらやる気がでるのか?
というシンプルな話です。
(後記)
息子や娘がまだ小さい頃、私が会社に行こうとすると、
「パパー、行かないで~」と足にセミみたいにつかまって、泣きそうになっていました。
親としては、ツライ時間。
そんなとき、私は「ごめんね。パパを待ってる人がたくさんいるから、パパは行くんだ」と言って、家を出ていました。
(実際は誰も待っていなくても……)
今、思えば、“自分の仕事は価値がある”ということを、自身に言い聞かせることで、自身を鼓舞していたんだと思います。
だって、可愛い子どもと離れるんだから、意義のあることをしていないとモッタイナイから。
つまらないことをするために、子どもとの時間を犠牲にしていると思いたくないから。
そして、無意識にですが、子どもに伝えたかったんだと思います。
「仕事は楽しいものである」と。